僕が初めて屋久島を訪れたのは15年前。
永田川の底から見上げた稜線が障子尾根だった。
圧倒的な存在感を放つ花崗岩の峰々はぼくを惹きつけた。
以来、障子尾根はずっと僕の心に留まっていた。
毎年屋久島に通うようになって、屋久島に友達ができた。
そして、彼と山に入るのが僕の楽しみになっていた。
まだまだ探検的な場所がたくさん残されたこの島。
「次はどこ行こうかな」わくわくは尽きない。
「一番行きたいところに行こうよ」
そんな彼の言葉がずっと心の奥に眠っていた引き出しを開けた。
慌ただしく準備をして、入山する。
あとから気づいたが、ちょうど山の神の日と満月が重なったスペシャルなタイミングだった。
障子尾根が見える場所まで行って、その日はビバーク。
この日にこの場所から眺める夕焼けはきっと世界で一番美しい。
反対の空にはまんまるお月さまが登ってくる。
「ああ、ここには神様がいる」
煌々と輝く月あかりの下で朝が訪れるのを待つ
永田川の源流部は花崗岩の大岩壁に覆われ、深く切れ込んだ門のようになっている
その場所が神様のクボと呼ばれていることに納得感を覚える
ここを通り抜ける風の感触は人間界のものとはちょっと違う気がするのだ
やがて東の空が明るくなる頃、
満月は神様のクボへと沈んでいく
「こんなことがあるのだろうか」
特別な日に、特別な場所で、特別な風景に包まれる
屋久島の山神祭の日は、入山を控えるのが慣例らしい
が、僕たちは歓迎されている気がする
お米とお酒をお供えして、高揚感と共に出発
障子尾根に道はない。
猛烈な藪漕ぎ…かと思いきや鹿道をうまく見つけて辿ると案外進める
障子尾根は、永田岳をⅠ峰として障子岳をⅫ峰と呼ぶ、12のピークが連なる岩稜尾根だ
岩を攀じったり、藪を漕いだり、懸垂下降をしたり、とひとつひとつ越えていく
はじめは遠くに見えていた障子岳がだんだん近づいてくる
写真には映らないがすごいスケールだ
ルートファインディングに苦労したり、下山時刻のプレッシャーを感じたりしながらも、どうにか無事障子岳のピークに立つことができた
こちらから見る永田岳は険しく切り立った山だ
登山道に復帰するために、一旦永田川へと降りる
15年前と変わらぬ風景が広がっていた
そして15年前と変わらぬその存在感
この滝もなつかしい
記憶の中の景色と今目の前に広がる景色とを重ねながら15年の月日に思いを馳せる